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1928年、ナポリ近郊のネクタイと刺繍の名産地サンジョルジオ・ア・クレマーノにて創業した老舗ネクタイ工房のオリジナルブランド「Francesco Marino（フランチェスコマリーノ）」。 フランチェスコマリーノのネクタイは、まるでモノクロ時代の映画を見ているような昔とまったく変わらない環境・慣習の中で作られています。ネクタイ作りの名匠マリーノ氏が生地をバイアスにカットし、最適な芯地を選び出し、この道数十年のベテラン職人がネクタイの形にしてピンを打ち、仮留めとプレスをする。それを近所の主婦たちが自宅に持ち帰り、家事の合間に縫い上げる。かくして、なんの変哲もない田舎町のネクタイ工房から、スカーフのように軽く、締めやすく、うっとりするような美しいディンプルを作ることができる世界でも指折りのネクタイが生み出されます。男の胸元に色気という名の華を添えるマリーノのネクタイは、ナポリの文化土壌に育まれた芸術品です。
ご紹介するのは、今の気分にぴったりの「コットンシルクジャカードストライプネクタイ（103715）」になります。独特の審美眼を持つマリーノ氏が選ぶ生地は他のブランドでは見られないものが多く、強い拘りと美意識の高さが感じられます。このネクタイには、厳選されたコットンとシルクの二者混素材を原料にした細番手糸を低速でじっくり織り上げた、しっかりとした打ち込みでハリ感のある“ツイル織りコットンシルクジャカード”が使用されています。やわらかくて色っぽい生地が多いマリーノのネクタイですが、こちらの生地は、いい意味で“らしくない”、打ち込みのいいアメリカっぽい生地になるとお考えください。 一見よくあるストライプネクタイですが、よく観察すると従来のものとは少し様子が違うことに気づくと思います。それは“ストライプの向き”です。英国の軍隊（レジメント）にルーツを持つ“右上がり”のストライプ（いわゆるレジメンタルストライプ）ではなく、1902年に米国のブルックス・ブラザーズが発売されたと言われる“左上がり（右下がり）”の「レップストライプ」になっています。アメトラムード満点のレップタイですが、それだけで終わらないのがマリーノがマリーノたる所以。剣先の裏地を省いたSFODERATO（スフォデラート）と呼ばれる仕立てによって、イタリアならではの“軽さ”や“やわらかさ”が表現されており、アメリカブランドのレップタイとは一線を画する洒脱な仕上がりになっています。 アメトラムードの中にイタリアの色気や洒落っ気が溶け込んだ、アメリカとイタリア、両者のいいとこ取りをしたような一本です。最近じわじわきているレップタイ。正統派のアメトラスタイルに合わせるならブルックス・ブラザーズのものを選べば間違いありませんが、イタリアブランドとのミックススタイルを楽しむならこういったイタリア的な解釈を加えたものに限ります。
マリネッラやタイユアタイは今では有名になりましたが、E.G.カペッリやフィノッロなど、イタリアにはまだそれほど知られていない一流のネクタイブランドが数多くあります。フランチェスコマリーノもそのうちのひとつです。マリーノのネクタイの素晴らしいところは、とにかく締めやすいことです。世界中から最高級と言われるネクタイを集めてきたところで、これほどまでに締め心地がよく、使う人に寄り添うネクタイはそうそう見つかりません。 その締め心地は、例えるならスカーフのようです。ふんわり軽く、まるでネクタイに導かれているようにスルッと締めることができます。あれこれ工夫せずとも、思わず息を呑むような美しいディンプルが生まれることには驚かされます。生地の厚みとのバランスを考えながら上質な薄手の芯材を巧みに使い分けることでノットを小さく縦長に絞り込めるように作られているので、ナポリ仕立てのジャケット（スーツ）との相性がすこぶるいいです。 最高に締めやすく、一日中していても決して緩まず、やわらかいのに型崩れしにくいこのネクタイの秘密は、近所の主婦たちが自宅に持ち帰り、家事の合間に縫い上げるという昔ながらの環境・慣習にあります。ネクタイはシンプルでありながらも奥の深いアイテムです。ミシン縫いで平準化して作るとすぐに解けてしまう付け心地の悪いネクタイになってしまいますし、手縫いで作るにしても雑なだけではいけません。かといって手縫いで丁寧に縫い過ぎてしまうとネクタイを締めているときに力が効率よく分散されず、付け心地が悪くなってしまいます。だからこそ“あいまいな手縫い”、つまり、近所の主婦たちの手縫いが最適なんです。私はボレッリの工場に何度も行ったことがありますが、手縫い箇所は工場ではなく、わざわざ近所の集会場に運び、そこで主婦たちが談笑しながらシャツを縫っている姿に驚いたものです。このようなナポリの文化土壌があるからこそ、最高に締めやすいネクタイが作れるのです。
※ ハンドメイドのため寸法に若干の誤差が生じる場合があります。
（単位: cm）
